哀悼のタイ王国(5)

洋裁店ではわずかに15分しかいなかった。いつもなら1時間以上も談笑するのに、今回は皆、忙しそうであった。唯一、嬉しかったのは体調をくずしていたオーナー女性が快復していたことだ。隣接する息子のイタリア料理店が倍の面積になり、それはそれは繁盛していることがよくわかった。飾ってある孫の写真を指差しながら、おばあちゃんの顔をほころばせていた。
 洋裁店を出たあと、クン・メーがヤーンナワー寺院へ行こうと言った。いつもはサパーンタクシン駅のホームから写真を撮るだけしかしていなかったので、寺院を見物するのは初めて。寺院の中からチャオプラヤー河の船着き場に出て、そこで魚を放った(ปล่อยปลา)。鰻にするか、それとも、鯰にするかと訊かれたので、私は鯰を選んだ。鯰のほうが、どんくさそうであったこと、顔が可愛かったこと、そして、70歳を迎える私には、大きさ的にも鯰のほうがよかった。
 クン・メーの読経をすぐあとから真似しながら5分唱えると、鰻はようやく目をぱちくりした。私の読経を認めてくれたのだ。そして気持ちよくチャオプラヤー河を泳いで行った。