短編小説

 『日本短編文学全集』(昭和43年)所収の「質屋の女房」(安岡章太郎著)を読んだ。青年が学校へも行かず、悪所通いをしていたが、金欠のために外套を質に出す。だが何度も質屋に通ううちに、多くの青年達が戦争に行く前に質屋に持って来た文学全集の整理を質屋の女房から頼まれる。やがて、過去が有りそうな彼女とほんの瞬間だけ心が通い合った。彼女が青年の胸に飛び込んできたからである。帰宅すると、母親から赤紙が来ていると知らされる。出征の日、質屋の女房は彼が質に出した外套を持って来て、「途中で風邪をひかないように….。それから、これは失礼かもしれませんけれど、あの方はあたしからのお餞別にさせて」と言って手渡す。なかなかしんみりとさせられる小説だ。
 昨日、私は仕事で板橋の方へ行った。日曜日なのでチェーン店を除き、ほとんどの食堂が閉まっていた。どうにか見つけた食堂に入ると、店主は普通に頑張っていた。かなりの歳かなあと思いながら、それとなく尋ねてみると、私と1ヶ月しか違わなかった。もっといろいろと話したかったが、横にいる奥さんの目が複雑そうであったので、そそくさと店を出た。私も短編小説がかけそうだ。