完乗列車

鉄道作家の種村直樹氏が亡くなられた。私は鉄道ファンではないが、彼のお名前だけは何度も目にして覚えている。
 昨日、古本屋で『乗ったで降りたで完乗列車』(種村直樹著 創隆社 1983年)を買って読んだ。新聞記者をやめて鉄道作家になった10年目の心境を、彼は次のように書いておられる。
 「37歳で本格的に書き出し、47歳の今も、10代の読者が喜んでくれている若さ、新鮮さを、50歳、57歳、60歳、70歳になっても保ち続けることができるのか」
 しかし、その心配は全く無く、彼は見事に初志貫徹を果たし、日本列島を数回にわたり完乗された。しかも鈍行列車で….。享年78歳。
 加速化の時代に入って久しい。スピードや高速という言葉に縛られてしまった現代の都会人。<鈍行>という言葉がまるでいぶし銀のよう….。
 外国もいいが、日本列島を隅々までのんびりと周遊するのもいいものだ。日本の味、日本の情緒に触れる旅は鈍行にかぎる。