アンコール と あんこ

昨日、フランス語の授業で面白いことがあった。生徒が「アンコール」と言うと、その発音があまりにも日本語的であったために、フランス語講師は「あんこ? ウィ ウィ 好きです」と答えた。そして、さらに続けた。「私の家族はみんな、あんこが好きです。主人はバゲットにあんこをぬって食べてます」
 我々生徒は顔を見合わせた。発音が悪いと、こんなことになるんだなあと思った。和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録されたばかりだから、和食についてフランス語で大いに論じることができる日が来るといいのだが、おそらく来そうもない。だが、目標が無いと、語学力はつかない。無理にでも目標を設定するのは肝要。
 来週、フランス語クラスはフランス・レストランで忘年会をする。そのため、授業中に先生がレストランに予約を入れた。「フランス語で予約しますから、よく聞いてくださいね」と言われたので、我々生徒は緊張したが、電話を取った予約係は日本の女性であった。フランス語がわからない。先生はずっとフランス語で押し通した。2分後、フランス人男性がやっとこさ電話に出た。おそらくシェフだと思う。先生の生きたフランス語会話を聞くことができて、とても楽しいひと時であった。

山手線の中のタイ人達

上野で開催されている「ターナー展」がもうすぐ終わるので、昨日、頑張って出かけた。外国人も多数見かけたので、ターナーの人気は高いと見た。ただし、私の場合、本場ロンドンのテート美術館で鑑賞した時の感動は蘇って来なかった。日本の美術館は狭すぎるし、天井も低く、入場者も多すぎるせいである。
 そそくさと美術館をあとにし、上野駅へ向かう。山手線に乗ると、タイ語が聞こえて来た。4人のタイ人であった。彼らは池袋で降りるであろうと勝手に思ったが、なかなか降りない。電車が目白駅に着いた時、私は彼らに話しかけた。
 ①観光で来たの? 一人の女性が答えた。「私は東京に住んでいます。他の人は来たばかりだけど」 ②じゃあ、学生なの? 「もう卒業しました。働いてます」 ③どこで働いているの? 「タイ・レストランです」 ④何ていう名前? 「○○○ です」 ⑤その店、新宿にありますよね。「いいえ、ありません。六本木、飯田橋 などにあります」 ⑥どこに住んでいるの? 「新大久保です」
 このような会話を目白駅から高田馬場駅の2分間でおこなった。私は教室がある高田馬場で降りなければならない。彼らは次の新大久保だ。降りる時、私は彼らに私のジャケットに刺繍されているタイ国旗を見せた。彼らは全員、驚いた様子をみせたが、すぐににっこりとした。

「タイ語中級 土曜日14:00」は完全会話クラス

「タイ語中級 土曜日14:00」のクラスは完全なる会話クラスである。すなわち、テキストを一切使わないので、ひたすら喋るだけのクラスだ。生徒達自身に話したい話題が無いと、このクラスは成立しない。だから、日々、話題をキープしておいて、土曜日の午後2時から爆発してほしい。幸いにも、タイ語で喋るのが好きな生徒達が集まっているので、このクラスは2年ほど続いている。
 2ヶ月前くらいから、元生徒さんの自由参加、つまり、都合がつく時だけ参加するという制度が有り、クラスの雰囲気が明るくなった。一人増えれば、それだけ話題が多くなるから、会話に彩りを添える。「やめた人でも、またタイ語を勉強したい人はいるはずです。参加した時にだけ受講料を1回分支払う自由参加型にすれば、やめた人もきっと来やすくなりますよ」と、元生徒は言った。なるほど、そうだ。
 日本にいると、タイ語を喋るチャンスは非常に少ない。昔は上手であった人も、しばらく話さないうちに、会話力は錆びついてきていることであろう。月に1~2回でも、ブラッシュアップすることは大いに必要である。それに、親しい人とばかり話していると、話題が偏る。知らない人と、あまり好きではない話題を話すことは、その場においては面白くなくても、いつかきっと役に立つにちがいない。

チェトの店主、頑張ってました!

昨日、代々木公園のけやき前広場へ行った。アースガーデン展に参加しているアジア雑貨「チェト」の店主を激励するためである。たくさんの店が出ていたので「チェト」を探すのに少々、時間がかかったが、ようやく「チェト」の目玉商品であるタイパンツを発見。そして、店主の華子さんもいた、いた!
 店主は東日本大震災発生後、写真を洗うボランティアで何度も何度も石巻に通い、そして、ついには石巻にお嫁に行ってしまった。聞くところによると、伴侶はボランティアで知り合った方だそうだ。東京のお店をたたんでまで、石巻にぞっこんの彼女。久々にお会いすると、これまでに見たこともないほどの幸せそうな顔をしておられた。年末・年始は雑貨の買付けにまたまたタイへ行く予定だそうだ。そして、新婚旅行も兼ねているとのこと。彼女が言った。「仙台からタイ航空で飛べるので、とても嬉しいです!」
 昨日、教室で偶然にも耳に入ってきた話だが、2年前まで日曜日にタイ語を習いにみえていたY子さんが、今、気仙沼に住んでおられるそうだ。やはり、ボランティアで知り合った男性とゴールインなさったとのこと。
 華子さんも、Y子さんも、なんと心が優しい方達であることか! 寒い東北で、頑張れ! 寒すぎたら、タイへ飛んでください!

海外旅行をしなかった年

昨晩、十数年前にやめた生徒さん達が企画した忘年会に参加した。このクラスは一年に2回、食事会をしているので、懐かしいという感慨は無く、ただ半年毎に元気であることの確認をしている感がある。とりたてて大きな話題が無いほうがいい。楽しく一緒に食事をするだけで幸せな気分になれる9名の集まり。
 私の左隣りに座ったS氏がこう言った。「来年、還暦なんですよ」 それを聞いて、私は、「えっ?」と言うしかなかった。思索的な文章を書くフリーランス・ライターのS氏。彼はさらに続けた。「今年は海外旅行に行っていません。こんな年は初めてです。90歳の母の介護をしていますから」
 私の右隣りに座ったのはK氏。彼からは先月、御母堂を89歳で亡くしたという喪中葉書を頂いたばかりなのでお悔やみを述べた。「今年は何かと大変でしたから、海外旅行に行けませんでした。来年はカンボジアへ行きます」と、彼は来年の夢を語った。
 こういう話を伺うと、御本人よりも家族のことでいろいろな変化があり、海外旅行がままならないことがわかる。私も今年は海外へ行けなかった。教室を守っていくことで、12ヶ月があっというまに過ぎたからである。

ネルソン・マンデラ元大統領の鍼灸師

昨日の朝、いつものようにNHKのBSで国際放送を視聴していたら、BBCが、今しがた入って来たニュースだと言って、ネルソン・マンデラ元大統領の逝去について放送した。彼の生涯に関する映像が流れたが、まさしく不屈の魂の方であった。元大統領の死に関して、人々のコメントが、これまた実にすばらしかった。
 マンデラ元大統領といえば、私には或る一人の女性の生徒さん(Uさん)のことが思い出されてならない。彼女がタイ語を習われたのは今から約25年前のこと。そんなに長い期間、習われたわけではないが、タイには大いに関心を持っておられた。
 それから10年くらいが経過した時、私は彼女が書いた本を書店でみつけた。今、手元に無いので本のタイトルは正確には言えないが、内容は、マンデラ大統領(当時)が来日された時に腰痛におそわれ、それを鍼で治してあげた縁でアフリカに招聘され、彼の鍼灸師となっているということが書かれてあった。
 今朝、ネットでチェックしてみると、同業者の鍼灸師が、日本女性が長年に亘ってマンデラ氏の健康管理にあたっていたからこそ、彼は95歳まで長生きできたのであって、日本女性の活躍を忘れてはならないと書いておられた。私もそう思う。

古本屋の投げ売り

目白にある古本屋が今月下旬で閉店することになり、投げ売りを始めた。そこで、昨日、4冊の本を買った。
 (1)『外国人労働者新時代』(井口泰著 ちくま新書 2001年)→ 外国人労働者が日本にどんどん増えているので、この本はとても興味深い。彼らの勢いはすごい。日本人のほうがおとなしすぎる。外国語ができれば、自分の意思を彼らに対してはっきりと言えるであろうに。
 (2)『生き方の不平等』(白波瀬佐和子著 岩波新書 2010年)→ 生まれたての赤ちゃんが取り換えられた結果、60年の人生が逆転した話題が最近、ニュースになったばかりだが、教育も、家庭の財力によってどうにでもなることを知り、考えるところがあった。
 (3)『脳がほぐれる言語学』(金川欣二著 ちくま新書 2007年)→ まだ読んでいないが、著者の言葉を引用すると、「言語学の応用というと、ふつう語学教育などをさすのだが、ここではもっといい加減に考えて、生きるための道具として、言語学を使おうと思う。ものの見方がきっと変わってくる(はずだ)。言葉を考えることは人間を考えることだから。」
 (4)『食べていくための自由業・自営業ガイド』(本多信一著 岩波書店刊 2004年)→ 実用書である。語学教室の経営の仕方も書かれてあった。

10年前の生徒さんから復帰の電話

 昨晩、携帯が鳴った。「Aです。先生、覚えてますか? 以前、タイ語の勉強に行っていた者です」
 私は答えた。「Aさんと言われても、たくさんいらっしゃいますから、どのAさんかしら?」 彼は言った。「がたいが大きい者です」
 そう言われる前に、私は彼の声で、どのAさんかがほぼ分かった。彼から体格がいいと言われた瞬間、彼の顔が鮮明に浮かび上がった。
 Aさんの用件は、来年からタイで仕事をすることになりそうなので、またタイ語を勉強しなおしたいということであった。
 「それでは、明日から早速、中級クラスにいらっしゃい!」と勧めると、Aさんは素直に「行きます!」と答えた。
 語学の勉強をし始める時、迷いに迷う人がいるが、それでは時間のロスである。Aさんのように即断するタイプが好きだ。
 それにしても、泰日文化倶楽部は、何と便利なタイ語教室であることか! 一度やめても、いつでも戻ってタイ語を勉強しなおすことができるからだ。教室の存在を守り抜くということには、いつも大変な思いをしているが、Aさんのような方が戻って来てくださるとなると、教室の存在価値は大きい。

茶色 vs 栗色 vs  砂糖色

 フランス語の授業では、色の名称を習っている。初心者にとって、色の名称は、挨拶や数字の次に習う内容の一つである。テキストがカラー版だから、なかなかに興味深い。
 フランス語では茶色のことをマロン色、すなわち、栗色というそうだから、発音するたびにおいしそうな栗が頭に浮かぶ。女性の髪の毛もマロン色というそうだ。そういえば、「亜麻色の髪の乙女」というが、感覚的には近いのかもしれない。
 それに引き換え、タイ語では、茶色のことを砂糖色(シー・ナムターン)という。サトウキビを搾ると、たしかに茶色の液体が生じる。これまた、想像するだけで、甘い気持ちになる。
 日本では茶色。たしかに茶葉を煎ると、茶色になる。香ばしい香りがいい。渋い表現だ。
 秋から冬に向けて、黒色の洋服を来た人が多くなるが、茶系を選んでいる人もよく見かける。茶系は落ち着きがあって品がいいが、気をつけないと、顔が暗く映ることがある。しかし、フランス語風に、マロン色と言うと、なんだか急におしゃれになったような気分になるから、これまた不思議である。

お稲荷さん

 先日の昼、鬼子母神近くの鮨屋に行くと、せっせと寿司を握っている大将に向かって、おかみさんが、「Aさんの家には届けますか? Bさんの家はどうしましょうか?」と、いちいち訊いている。手には葉書がいっぱい。すでに宛名書きが終わったようだ。今から届けるとなると年賀状ではない。もしかすると、閉店案内かもしれないと思い、おかみさんが料理を運んで来た時、おそるおそる尋ねてみた。「何の案内ですか?」
 すると、鬼子母神境内にあるお稲荷さんの初午祭の通知だと答えた。「最近はお稲荷さんのお参りが少なくて。若い人は関心が無いんですよね」と、淋しそうにつけ加えた。横から、大将が割って入った。「私は講元をしているんですよ。あの稲荷は鬼子母神よりも前から、鬼子母神境内にあったんだからね。」
 講元と聞いて、大将の顔をしっかりと見た。おかみさんが、「どうかお参りしてください」と言って、私にも葉書をくださった。葉書には冒頭に、こう書かれてあった。「武蔵の国雑司が谷鎮座四百八拾年 鬼子母神の地主神 開運出世武芳稲荷初午御通知」
 大変なお世話をしている講元の鮨屋さんに、どうかお客がたくさん来ますように!